クラシック音楽には本当に縁遠い僕ですが、なぜか『ボレロ』だけは好きでときどき聴いています。
構成がシンプルで覚えやすいから良いんですかね。
昔から様々な場面で使われていて、何となく耳馴染みがあるということもありますし。
いろんな演奏を聴いていて思うのは、「指揮者と演奏者(楽団)が違うだけで、演奏もこんなに違うものなのか」ということ。
「クラシックは誰が演奏しても同じ」という先入観がありましたが、改めて聴いてみるとその違いの大きさに驚かされます。
まぁ、未だに違いが分かるのは『ボレロ』くらいですがw。
事あるごとに『ボレロ』が収録されている CD を買い増して聴き比べてるんですが、自分なりにはだいぶ違いを把握できてきたので、ここらでちょっとまとめてみようかと。
とはいえ、技術的なことやら学問的なことやらの難しい話は一切分からないので、「批評」や「レビュー」ではなく単なる個人的な「感想文」です。
一応分かりやすくランキング形式にしてますが、判断基準は主に僕の個人的な好みや「こんな感じかなー」という印象のみ。
あくまで参考までに読んでいただければ。
クリックできる目次
- 1 第一位 指揮:シャルル・デュトワ 演奏:モントリオール交響楽団(1981 年 7 月収録)
- 2 第二位 指揮:ピエール・ブーレーズ 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1993 年 3 月収録)
- 3 第三位 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1985 年 12 月収録)
- 4 第四位 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1966 年 3 月収録)
- 5 第五位 指揮:クラウディオ・アバド 演奏:ロンドン交響楽団(1985 年 6 月収録)
- 6 第六位 指揮:シャルル・ミュンシュ 演奏:パリ管弦楽団(1968 年 9 〜 10 月収録)
- 7 第七位 指揮:アンドレ・クリュイタンス 演奏:パリ音楽院管弦楽団(1961 年 11 月収録)
第一位 指揮:シャルル・デュトワ 演奏:モントリオール交響楽団(1981 年 7 月収録)
初めてちゃんと音源で『ボレロ』を聴いたのがこの演奏ですが、これを超えるものにまだ出会ってません。
良いんだか悪いんだか。
僕にとっては「ザ・ボレロ」で、イメージしていた音をそのまま再現してくれたという感じです。
テンポ、音のバランス、中盤から終盤へかけての盛り上がり、そしてクライマックスの締めまで。
ところどころ音やリズムを外していると思われるところもありますが、まったく許容範囲内。
優雅さと迫力を併せ持った、素晴らしい名演だと思います。
考え方によれば「無難」「面白みがない」という捉え方もできるんでしょうが、僕としてはこれくらいがちょうどいい塩梅。
最後がグシャッとなってしまう演奏が多い中、音を完璧に合わせて、きっちり締めてくれるあたりもステキです。
CD には他に『スペイン狂詩曲』や『ラ・ヴァルス』など、ラヴェルの代表曲も収録されていますし、入門編としてぴったりじゃないでしょうか。
第二位 指揮:ピエール・ブーレーズ 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1993 年 3 月収録)
スピードはちょっと速めですが、勢いや迫力というより「美しい」と感じる演奏です。
他の演奏に比べ弦楽器が強調されているようで、特に素晴らしいのは、後半のバイオリンが主旋律を奏でる部分。
トランペットが入ってこようが、最後までバイオリンが主役であり続けます。
このせめぎ合いは、かなりの鳥肌モノ。
この演奏は最近聴いたんですが、一気に上位へ食い込んできました。
一位にしようか迷うほどだったんですが、最後はやはりクライマックスの締め方でデュトワに軍配。
ただ、この辺りは本当に好みだと思うので、人によって判断が分かれるところだと思います。
迫力や力強さを求める人は、逆に合わないかも。
弦楽器が強調されているということは、その分管楽器が弱いということですしね。
この演奏が物足りないという人には、カラヤンやアバドをおすすめします。
第三位 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1985 年 12 月収録)
『ボレロ』は三拍子のバレエ音楽なんですが、この演奏はまるで二拍子の行進曲みたいに感じます。
なぜなんでしょうね? 理由はよく分かりません。
ただ、とにかく勇壮で迫力のある音に仕上がってます。
踊り子が軽やかに踊っているというより、大軍の兵士が一歩一歩大地を踏み進めているような……。
最初から最後まで淡々と進んでいって、クライマックスに向けてゆっくりと盛り上がっていきます。
「ゆったり」ではありますが、ミュンシュのそれとはまったく違って「優しい」感じは皆無。
勢いはないものの、非常に力強い演奏です。
第四位 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1966 年 3 月収録)
三位で挙げたカラヤンの演奏と同じく、こちらもやはり行進曲のような勇ましい雰囲気。
というか、こちらの方が勇ましさや力強さは上のような気がします。
小太鼓の音が前半はほとんど聞こえず、後半のバイオリンが入ってくる辺りで突然大きく鳴り出します。
なので、リズムはほとんど他の楽器で奏でている状態。
小太鼓が徐々に大きくなっていくのが『ボレロ』の大きな特徴の一つだと思うんですけどねぇ。
いったいどういう意図があるんでしょうか。
メロディを奏でる楽器についてもやや特徴的で、わざとズラすというか、「ため」を作るというか、余韻を残すような音の出し方をしています。
それによって、より情緒的になっているような。
そして、この演奏で謎なのは、クライマックスでシンバルと銅鑼(タムタム)が鳴らないこと!
「寂しい」とか「物足りない」とかのレベルではなく、ものすごい肩すかしでした。
消化不良でモヤモヤしたまま「え? あれ? 終わっちゃった?」という感じ。
やっぱり「最後にシンバルと銅鑼が鳴ってこその『ボレロ』」という意識があるので、それが無いというのはちょっと……。
シンバルや銅鑼にとってみても、『ボレロ』での唯一にして最高の見せ場なわけで。
意図はまったく不明ですが、謎すぎます。
第五位 指揮:クラウディオ・アバド 演奏:ロンドン交響楽団(1985 年 6 月収録)
第一印象は「速っ」でした(演奏時間は 14 分 25 秒)。
ここに挙げた演奏の中では最速。
15 分から 16 分くらいが一般的ですから、かなり際立ってます。
そのおかげで勢いはありますが、かといって荒い演奏かといえばそうでもなく。
ただ、リズム担当の楽器が聴いているだけでもすごく大変そうです(特に管楽器)。
他の演奏に比べて、高音の管楽器(フルート? ピッコロ?)を強調しているような。
どういう意図なんでしょうね。
あまり重い感じにはしたくなかったんでしょうか。
それから最大の特徴は、クライマックスの叫び声。
CD の解説には、
間断なく演奏された主要録音の最後の数小節で、弦セクションの楽団員から自然に叫び声が湧き起こった。
とあります。
が、演奏を聴いているだけだと、「自然に」起こったようには感じませんでした。
当初から予定されていたように感じたので、この解説を読んだときは逆に驚いたほど。
たぶん好きな人は好きなんだろうと思いますが、僕にとっては残念ながらマイナスポイント。
「勢い余ってつい叫んじゃった」というのが感じられたら、まだ良かったんですけどね。
映像で観たらまた違った印象になったかもしれませんが。
第六位 指揮:シャルル・ミュンシュ 演奏:パリ管弦楽団(1968 年 9 〜 10 月収録)
とにかく「ゆったり」してます(17 分 04 秒)。
ラヴェル本人も 17 分程度を望んでいたそうなので、そういう意味では楽譜に忠実なのかもしれません。
ただ、他の一般的な演奏(15 〜 16 分程度)と比べると、どうしても物足りなく感じてしまいます。
優しい低音部の響きと相まって眠りを誘われる……もとい、非常にリラックスできる大きな演奏です。
テンポがゆっくりな分、一音一音丁寧に演奏しているように感じますし、総じてとても優しい雰囲気。
もちろん盛り上がらないといけないところは盛り上がりますが、「ゆったり」感は残したままのフィニッシュ。
勇ましい感じや躍動する感じよりも、大きく包み込まれるような感覚の演奏です。
第七位 指揮:アンドレ・クリュイタンス 演奏:パリ音楽院管弦楽団(1961 年 11 月収録)
聴き終わったときに「おぉいッw!」と突っ込んでしまった演奏です。
取り立てて「ここがダメ。あそこがダメ」というわけではないんですが、なんとなく全体的にバランスや安定感を欠いているというか。
オーケストラの息が合ってないんですかね。
クライマックスで盛り上げようとしているのは良いんですが、音は外れてるしリズムも崩れてるし……。
最後の最後も「ぷわぁん」と情けない音が鳴る中、ぐしゃぐしゃぐしゃーっと終わってしまいます。
正直、この演奏だけしか聴いていなかったら分からないレベルですし、「聞くに堪えない」というほどのものでもありません。
ただ、他のを聴いてしまうと……、ね……。
「有名な指揮者、有名な楽団でもこういうことがあるんだ」という意味では勉強になりましたが。
恐らく録音は一発勝負でしょうし、そういう意味での難しさも感じる演奏です。