感想とか 日記

小林賢太郎演劇作品『うるう』を観てきた。

小林賢太郎演劇作品『うるう』を観てきました。
会場はおなじみサンケイホールブリーゼ。
当日券も出てたみたいですが、ほぼほぼ埋まってたんじゃないかと思われます。

小林賢太郎演劇作品『うるう』@サンケイホールブリーゼ

今回は再演。
初演は 2011 年末から 2012 年初頭にかけて。
つまり 4 年前。そう! うるう年!

初演を観たときは本当に衝撃で、僕にとって小林賢太郎作品すべての中でも一二を争うほど好きな作品です。
それがなぜか映像化されない。
待てど暮らせど、その後の作品は次々と発売されていくにも関わらず、この『うるう』だけはなぜか映像化されなかったのです。
後で知ったんですが、そもそも最初から撮影自体してなかったとのこと)
で、今回の再演決定の報せを受けて狂喜乱舞。
前回のような感動と衝撃を期待して席に着いたのですが……。

結論から言うと、今回はさほど感動も衝撃もありませんでした。
観ているときや観終わった後しばらくは、正直「初演の方が良かったかもなー……」と思ったくらい。
でも不思議なもので、徐々に「今回は今回で良かったのかも……」という思いに変わっていきました。
僕は小林賢太郎作品を観た後にちゃんとした感想が出てくるまで時間がかかるんですが、今回はそれがより顕著だったような気がします。

まぁそれに今回は再演ですから、いわばほとんどネタバレした状態で上演しているわけですね。
そりゃあ感動や衝撃は少なくなるよなぁ、ということにも思い至った次第。
セリフやエピソードや演出が初演からどの程度変わったか、細かいところまではよく分かりません。
ただ、記憶に残っているシーンやネタがいくつもあったので、おそらく大まかな筋はあまり変わっていないと思います。

ストーリー自体はそれほど深いわけじゃありません。
でも、厚みはちゃんとある。深くはないけど、しっかり厚い。
それも百科事典のような重々しい厚みじゃなくて、まるでスポンジケーキのようなフワッフワの軽く安心感のある厚み。
人によってはそれを「中身がない」「スカスカだ」と感じたりもするようなんですが、僕的には「フワッフワ」でした。フワッフワ。
大きく安堵のため息をつきたくなるような、優しく柔らかな作品でした。
物語の中で何かが解決したり奇跡が起きたりすることはないんですけどね。
決して幸福とは言えない境遇の中でも、人は誰かと出会うことができるし、小さな喜びを見出すこともできる。
そんなお話。

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大きく変わったとはっきり分かるのは演出面。
特に、『ポツネン』シリーズや『小林賢太郎テレビ』などで磨かれ続ける映像を使った演出は、前回にはほとんど(まったく?)なかったものです。
『ポツネン』や『ノケモノノケモノ』のように目立ってはいませんでしたが、随所で控えめに効果的な映像が使われていました。

そう、全体的に「控えめ」なのも今回強く印象に残ったことの一つ。
変な表現ですが、演者の二人さえも黒子に徹しているような。
小林さんのアクトやパフォーマンス、徳澤さんの演奏、舞台装置、そして映像。
それらが一体となって作品を前面に出しているというか、しっかり支えようとしているように見えました。
小ネタや映像の演出もこれくらいが僕にとっては丁度いい塩梅。
生演奏の音楽もすごく心地よかった。
ひょっとしたらこの作品の主役はヨイチじゃなくてマジル少年だったのかもなぁ。

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初演から約 4 年。
確実に自分は 4 つ歳をとっているけれど、舞台上のヨイチはほとんど変わらずそこに居た。
このタイムトリップ感を味わわせるためにあえて初演は撮影していなかったのだとしたら……。
最初から 4 年後の再演を見据えての作品だったとしたら……。
小林賢太郎、恐るべし。
(考え過ぎかも知れませんが、有り得ないこともないのでねぇ……)

今度こそ映像化してほしいと思う反面、何年かに一度(もちろんうるう年に)再演してほしいような気もします。
カタチに残しちゃいけない作品なのかもなぁ。
あー、でも、あの音を重ねていく『カノン』がモチーフの曲は相当良かったし、サントラは欲しいかも……。
いやー、でも、あの音楽はあのシーンがあってこそだしなぁ……。
あぁ悩ましい。

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上述の通り、僕は「感動した!」という感じではありませんでした。
終演直後はやや夢見心地というか、ちょっとボーっとするような感じで。
でも、決して少なくない人たちは万雷の拍手を贈り、スタンディングオベーションをする人もチラホラ。
それが僕からするとすごく違和感があったんですよね。

いや、もちろん悪いと言ってるわけじゃないんですよ?
でもねぇ、あの世界観からすぐさま現実世界に戻ってスタンディングオベーションができるというのが、僕にはとても信じられない。
ひょっとして最初からスタンディングオベーションするぞ、って決めてたんじゃないかという邪な疑念がね、ちょっとだけあるわけですよ。
しかも両手を舞台に向けて振ったり、「キャー」なんて歓声を上げたりしている光景を目の当たりにすると、心のどこかで「アイドルのコンサートじゃあるまいし!」とツッコんでしまってる自分が居るわけですよ。
もちろん感想や感じ方は人ぞれぞれですし、それをどう演者の人たちに伝えるかも自由なんですけど、両手を振って「キャー」はどうなんだろう……、と。

僕個人の希望としては、ここらで小林さんにはものすごくトンガッた作品をぜひ作って欲しいと思うのです。
初期『ポツネン』のように、観客が呆気にとられて置いてけぼりを食うくらいの。
もうちょっと不親切な作品があっても良いと思うんですが、どうでしょう。
さらなる進化に期待しております。

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