「好きにして」と言われると僕は空っぽになる。
そう言われた瞬間、すべての地図やコンパスや道標を奪われてしまう。
地図を広げれば、世界は世界だ。日本は日本だ。
コンパスを覗けば、北は北だ。その反対は南に決まってる。
道標さえ見ていれば、迷うことはない。少なくとも、どこかには辿り着く。
それらすべてを奪われた僕は、だだっ広い平原に放り出される。
地平線の円周が囲むその中心に、ぽつんと立たされる。
ここには何もない。
天頂でぎらぎら輝く太陽によって作られるわずかばかりの影以外、何もない。
どこへ向かおうが、それは僕の自由だ。
でも僕は自由だろうか。
どこへでも自由に向かえる僕は、はたして自由なのか。
このまま立ち止まっていたら、いずれ干からびてしまう。
どこかへ歩き出さないといけない。
空っぽの僕は立ちすくんでいる。
無力なままで震え上がっている。